優しい爪先立ちのしかた
それを見てカナンも怪訝な顔をした。え、私なにか言ったっけ?
「カナンが、梅雨の間は何も口出ししないって言ったからでしょう」
「あ、言った! かも」
「まあ、覚えてなくても良いんだけどね」
久しぶりに栄生の笑う顔を見た気がした。
外で雨が降り始めた。ここ最近、外での練習が出来なくて中で筋トレばかりしている。
傘も毎日持ってこないと帰れない。
栄生の視線がそちらを向いていた。
「今日も先輩と会うの?」
「うん、ご飯」
「因みに今回は何人目?」
「三人」
栄生の視線がカナンに戻ることはなく、虚ろともいえるような眼で、窓の外を見ていた。
テレビがニュースに切り替わってハッと我に返る。表示された時刻を見ると、夜の九時ぴったり。梢は玄関を見たが、人が帰ってくる様子はない。