優しい爪先立ちのしかた

「吐け」

「…うん?」

「今すぐ吐け」

先程とは形勢逆転。掴みかかる梢は、無理にも栄生の口をこじ開けようとする。

一方、栄生も反射的に口を閉じる。

瓶が手から落ちた。マットの上にゴトン、と音を立てて転がる。

本当に怒るような表情の梢に、栄生が体を遠退けようとした。その前に、後頭部を掴まれて、重なったという表現では可愛いくらいに、咥内に噛みつかれた。

最初から、梢の目的のブツは咥内にある。ざらりと栄生の歯の裏を舐めあげて、薬を探しあてた。絡め取って、外へ棄てた。

生理的に出た栄生の涙を見て、栄生の唾液とグロスで乱れた口元を袖口で拭う。自分の口の中にも少し薬の味が残っていた。

驚いたような顔を梢に向けた栄生は、指でグロスのついた梢の口元を拭う。



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