優しい爪先立ちのしかた

そして頬を引っ張る。

「このまま引っ張ったら伸びるかなあああ?」

「いた、痛いんですけど」

「目潰ししないだけでもマシだと思った方が良い」

「すいません」

栄生の腕を掴んで下ろした梢は、そのまま緩い力で栄生を抱きしめる。
再度驚いて、それでも静かにする。

落ち着くと、栄生の口の中も薬の味がした。いつも飲んでいたが、この味には慣れない。

頭を梢の鎖骨に預ける。

「昔の仲間に、クスリやってる奴がいました」

急に話された梢の昔話。顔を上げる勇気は、出なかった。

「そいつも睡眠導入剤から始まったんです。眠れないからって、続けて、気付いた時にはもう浸ってた」

「…私はそんなにならない」

「栄生さん」

吐け、と命令口調だったその声が呼ぶ。



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