優しい爪先立ちのしかた
恐ろしく穏やかな声。
栄生は、嫌な意味で自分の心臓が止まるかと思った。
考えれば、年上に怒られるのは久しぶりかもしれない。
「自分はそうならないって言ってる奴が、一番なった時危ねえんだよ」
栄生が顔を上げる。梢は一瞬怯えたような顔をした栄生に、脅しすぎたかな、と考えながら腕に力を入れて立ち上がらせた。
何故か無性に切なくなって、梢に抱き付いたぎゅうぎゅうと、これまた容赦なく締め付ける栄生に、油断していた梢。胃の中の物が出そうだ。
「梢」
「はい」
「ゴメンナサイ」
片言なその言葉に、本当に反省しているのかという気持ちにはなったが、まあいいとしよう。夜も遅い。きっと二人のこれからの時間も長い。