優しい爪先立ちのしかた
彼の膝
空が明るい。梅雨も明けて、高校最後の夏休みが来る。
受験生組にはとっては休みなどではないが。
「そういえば、栄生ちゃんは受験するの?」
昨日から冷房の調子が良くない部屋で、栄生は自分に向かってパタパタと下敷きで仰いでいた。
「するよ」
カナンの視線に仰いで欲しいのか、と思い違いをして、その風をカナンの方へ向けた。頼んでないけれど有り難く仰いでもらう。
「え、するの?」
「え、するよ? カナンも受験でしょう?」
「そうだよー。夏休みは予備校行かなきゃだなあ」
暑さと勉強とで潰れそうだ。
それは大きな屋敷に住む栄生にしろ、部活大好きなカナンにしろ。
「そういえばさ、この前は梢さんに会えた?」
この前、はて。栄生は考えこんで、思い当たる節にカナンへ風を送るのを止めた。