優しい爪先立ちのしかた

数式を見ると吐き気がする。最初にそれを聞いたのは誰からだったか。

「実際に吐き気なんてしないけど、私は理系にはいかないです」

「どうして? 理系の科目も充分に良いと思うけど」

「実験とか好きじゃないし。大学では好きなことして過ごしたいんです」

栄生はこれまでとった自分の成績表から目を逸らす。

三年間栄生の担任をしてきた式鯉は、サイドに残っている髪の毛を耳にかける。

この子からは都会の匂いがする。

長くもない教師経験より、本能の方がよく働いている。式鯉は小さくため息を吐く。

理系の方が就職が楽だなんだって、大人が進めるからといって子供がそっちにいくわけじゃない。そんなのは重々承知のうえだ。

「じゃあ、氷室さんのしたいことってなに?」

「のんびり暮らすこと」

「あのねえ…」

しゃんと背を伸ばして座る栄生はとても良い教育を受けてきたのだと思う。



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