優しい爪先立ちのしかた
しかし、そんな都会っ子は、特にこの街から出て行きたいという志向もないらしい。
小学五年生の頃にここへ引っ越してきて、公立の中学、高校へと進学。
中学の資料によると、一緒に住んでいるのは使用人のような男やら女やら。たまに替わるらしい。
肉親と住んでいない理由は分からない。友人である深山カナンも家族のことはあまり聞かないと言っていた。
「氷室さん、憧れてる人とかはいないの? 職業とか」
「憧れ…」
「近しい人とかに」
栄生は式鯉には分からない程度に眉を少し顰めた。小さく息を吐いて、式鯉を見る。
「先生です」
「誰でも見抜けるような嘘を」
「そんなことないですけど」
夏休み前の二者面談。夏服のプリーツスカートは風をよく通す。