優しい爪先立ちのしかた
でも少し嘘かもなあ。
運動部が練習する声が校庭の方から聞える。式鯉はラクロス部の顧問だが、時間はまだ良いのだろうか。
「お父さんの仕事は、継がないの?」
栄生の視線が式鯉に戻る。その目は澄んでいて先程までの顔とは違う。
「私は、継げないので」
にこりと作り笑いを見せつけて、栄生は背もたれに背をつけた。窓の外の、見えるはずのない梢の姿を考える。
梢も栄生より年上だったのだと、なんとなく思い出す。
「氷室さんて、」
「はい」
式鯉が資料の上に頬杖をついた。あ、今くしゃって聞えましたけど。
「私の高校生時代に似てて、結構嫌いよ」
開いた窓から風が入る。生温くなってきたその空気に、欠伸を噛み殺した。