優しい爪先立ちのしかた


暑い…という呟きを夢現の中で聞く。目を覚ました栄生は、少し振り返った。

「…とりゃっ」

「ちょ、栄生さん」

背中を梢にべったりくっつけた栄生は、満足そうに脚を伸ばした。

居間には合わないような大型液晶テレビに映るのは、水族館に足を運ぶ家族連れや恋人たち。

日本特有の湿気を含んだ空気が、気温をより高くしているように感じる。

「水族館行くくらいなら、市場に行って美味しいマグロ買ってくる方が良いのに」

「セレブの発想ですよそれ」

「冗談に決まってるでしょう」

セレブが言うと冗談に聞こえない。

梢はずるずると滑っていく栄生の脇腹を掴んで元の位置に戻した。

「私って、嫌な奴?」

「はい?」

栄生にしては気弱な、梢にしては珍しく疑問文の言葉。

水族館から、ニュースに切り替わった。



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