優しい爪先立ちのしかた

自分を好きな人間なんて、然う然う居ないことを、栄生は知っていた。

自分の嫌な所まで愛せる人は、本当に少ない。

それは、他人に対しても同じだ。

「気にしないで良いです。教師はいつだって意見を押し付ける。俺も深山さんも嶺さんも、栄生さんのこと嫌いじゃないですから」

「言葉の端々から教師に対する悪意が垣間見える」

「そんなことないですよ」

そんなことある。反論しようとしたが、辞めた。

沢山の人が生きてるのだ。色んな生き方がある。

「ありがと。てゆーことで、今日のご飯はお刺身」

「今朝は蕎麦食べに行くって言ってたので何も買ってないですよ」

「あ、そうだった。蕎麦」

立ち上がった栄生がリモコンを取ってテレビを消した。

梢は小さくため息を吐くのを、栄生は気付かずにいた。



< 90 / 326 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop