優しい爪先立ちのしかた
自分を好きな人間なんて、然う然う居ないことを、栄生は知っていた。
自分の嫌な所まで愛せる人は、本当に少ない。
それは、他人に対しても同じだ。
「気にしないで良いです。教師はいつだって意見を押し付ける。俺も深山さんも嶺さんも、栄生さんのこと嫌いじゃないですから」
「言葉の端々から教師に対する悪意が垣間見える」
「そんなことないですよ」
そんなことある。反論しようとしたが、辞めた。
沢山の人が生きてるのだ。色んな生き方がある。
「ありがと。てゆーことで、今日のご飯はお刺身」
「今朝は蕎麦食べに行くって言ってたので何も買ってないですよ」
「あ、そうだった。蕎麦」
立ち上がった栄生がリモコンを取ってテレビを消した。
梢は小さくため息を吐くのを、栄生は気付かずにいた。