優しい爪先立ちのしかた
そんな時、不意に栄生の魔法のようなものが効いているのだと感じる。
平日の夜だからだろうか、栄生と梢以外に客はなかった。ただでさえ、こんな田舎の商店街に位置しているのだ。休日も常連ばかり。
「携帯、鳴ってませんか?」
「あ、本当だ」
バイブ音にいち早く気付いたのは梢。栄生はポケットから携帯を取り出すと、画面に出たのは深山コロッケだった。
カナン本人からじゃないのに、とても違和感を覚える。
一瞬梢に目をやると、出ないのか、という表情。
「出て良いですよ。他のお客居ないんで、今だけ特別」
「すいません」
栄生の代わりに梢が言った。まるで保護者のようだ。
『もしもし、栄生ちゃん? 今カナンと一緒?』
「いえ、違います、けど。カナン帰って無いんですか?」
栄生の声に男二人は顔を上げる。深山コロッケはすぐそばに店を構えている。
『そうなの。連絡も取れなくて…』
最近の女子高生は夜遊びが大好きなのかと、呆れ半分に梢は箸を置いた。