幻桜記妖姫奧乃伝ー花降る里で君と
どれくらいの間、扉の前で座り込んでいただろうか。


数時間か数十分か、とりあえず結構な時間がたった後、華澄と聖の話し声が廊下の方から聞こえてきた。


「とりあえず、悔しいけど慈薇鬼のやつらに応援をたのん……あれ?」


背後から衝撃がきて、礼太は慌てて飛びのいた。


そのままの勢いでベッドに飛び乗ると、枕に顔をうずめる。


開かないドアに首をかしげていたのであろう華澄たちがようやく入ってくると、


「兄貴」


と心配そうな声をかけてきた。


妹と弟の気配を感じ、あたかもずっとそこで寝ていたかのように重い仕草で顔をあげる。


(なにをやってんだ、僕は…)


「どうしたの、具合悪い?」


聖が心配そうに顔を覗き込んできた。


ううん、と言おうとしてふと考え直し、


「うん」


とうなづく。


「そっか……夕飯は食べられそう?」


無理そう、といかにもつらいですという声を出す。


さすがに、さっきの今で大人数の前に出る勇気はない。


もし、皆の前でさっきのアレになってしまったら。ぞっとしない。


それに奈帆子にはおかしくなったところを見られている。


不信に思われているかもしれない。


二人に嘘をつくのは気が引けたが、仕方ない。


じゃあ、明日からどうするんだよ、と言われると痛い。


もしこの案件が長引いたらその間ずっと断食するつもりかよ?


それか部屋に食事を運んでもらう?


雇われてる分際で?


(いいや……明日考えよ)


「隼人くん……見つかった?」


尋ねると、二人は大いに苦々しい笑みを作って顔を見合わせた。


どうやら、相当遊ばれたらしい。


「隼人くんって、確か亡くなった時14歳のはずだけど、感じが妙に子ども子どもしてるのよねぇ。」


まぁ、今は今夜の見張りの方が大切、と華澄がぎゅっとこぶしを握った。


そう、この屋敷の怪奇はまだ、何一つ解決していない。




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