幻桜記妖姫奧乃伝ー花降る里で君と
「ねぇ、兄貴。休んでてもいいのよ」
心配そうに言う華澄に、大丈夫だよ、とにっこりする。
「もう、しんどいのなおった」
もとから健康体だったけども。
「そう」
華澄はそれ以上なにも言わなかった。
礼太たちは旦那さんの寝室に向かっていた。
子供とはいえ三人分も人口が増えたら旦那さんも眠れないかもしれないが、致し方ない。
「………あー、中止じゃなかったっけ」
「すみません、気が変わっちゃって」
困惑する旦那さんに、華澄がにっこりした。
どうやら、奥さんと奈帆子にけどられぬように、旦那さんにも何も伝えていなかったらしい。
「そう、そうか。分かったよ、まぁお入り」
旦那さんの部屋はかなり広かった。
どうやら、二つの部屋が続きになっているらしい。
「どうする、あっちの部屋にソファがあるけど」
「いえ、申し訳ないんですけど、寝室の方で見張ってていいですか?」
何ひとつ見逃してなるものかと目で訴える華澄に若干気圧されながらも、旦那さんは寛大に笑って見せた。
「ああ、勿論いいよ。ただ、昨日の男の子たちはあっちの部屋にずっといたものだから、君たちもその方がいいかなと思ってね。それにしても、あの子たちの素早さにはびっくりしたな。気がついたら隣にいるんだから」
それこそ、透過体質のなせる技というものだ。
礼太は勿論、華澄にも聖にも希皿たちの真似は出来ない。
希皿たちのように壁を突っ切ることが出来ない以上、寝室で待機させてもらうしかない。