幻桜記妖姫奧乃伝ー花降る里で君と
「おい、弟」


そっけなく呼ばれて聖が冷たく希皿を睨んだ。


「僕、あんたの弟になった覚えないんだけど」


「使役使ってお前の姉貴を呼び戻せ。もう、親の承認とる必要ないから。むしろ呼ばれるとめんどくさい」


希皿は聖と揚げ足の応酬をする気はないらしく、すげなく言った。


ひやひやと見守る礼太を尻目に、聖がらしくない嘲笑を希皿に向ける。


「とっくに知らせたよ。僕、希皿みたいに頭の回転鈍くないもの!」


……うざっ、と希皿の口元が動くのを確かにみたが、実際に声になって出てきた言葉は、


「あ、そう」


だった。


「兄貴っ」


示し合わせたように華澄が部屋に飛び込んでくる。


そして相変わらず床にへたり込んだままの礼太を見て、ほぉ、と息をついた。


「よかったぁ、兄貴生きてる」


「勝手に殺さないでよ」


苦笑いしながら言えば、だって、と口を尖らせた。


「倒れたって聞いたからしんぱ……」


んんっ、とベッドの上の奈帆子のうめき声を聞き、華澄は口をつぐんだ。


「……生き霊の問題はまだ解決してないけど」


うめきながら、奈帆子がゆっくりと起き上がるのが分かった。


うー、と言いながら首を振り、ぼんやりとしていた焦点が定まったらしく、ようやく礼太たちに気づいてぎょっとした顔をして見せた。


「……あんたら、何してんの。」


心底不思議そうに目を瞬かせる。


やはり、奈帆子に自分が生き霊であるという自覚はなさげだ。







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