幻桜記妖姫奧乃伝ー花降る里で君と
(……っ……うごけっ…言うこと聞けよ……うごけったら…っ)


心の中でどれほど叱咤しても、礼太の身体は全く動かない。


ダメだ、どうしよう。


自分にできることが何もないことはわかってる。


でも、これはあんまりだ。


華澄が悲鳴をあげた。


必死で宙をかく動作をするが、その度に、逆にかまいたちのようなものに体を刻まれ、血が舞う。


聖は何かを唱えていた。


唱えながら華澄と同じように手刀を振るうが、見えない礼太には、それが当たっているのか分からない。


(くそっ、………なんで……やめろ、やめろ、やめてくれ………っ)


見えない何かは、明らかに楽しんでいた。


二人の子どもを、時間をかけて痛めつけることで悦に入っている。


自分は本当に何も出来ないのか、このまま、なにかわからないものに妹と弟がいたぶられるのを、見ているしかないのか。


このままでは二人とも、嬲り殺される。


(……はな…め…さん、華女さん‼)


どんなに呼んだところで届かないことなどわかっている。


けれど呼ばずにはいられなかった。


(ああ……お願い、希皿、気づいて…きさら……きさら……)


キサラ


それは希望の響きだった。


朝川中学で、助けてくれた。


父さんから逃げ出した時も、助けてくれた。


その時、華澄と聖の身体が、大きく傾いだ。


カッと目を見開き、地面に倒れる。


まだ中学生にもなっていない二人。


土を叩く音はあまりにも儚かった。


ぼんやりとした視界の中で、礼太は二人の鮮血が、地面をつたうのを見た。


あ……やだ……だめだ……


思考が暗転した。
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