幻桜記妖姫奧乃伝ー花降る里で君と
薄闇の中、雪政が華澄を、希皿が聖を背負い、屋敷へと戻る。


二人の意識が戻らないことを不安がる礼太に、雪政が微笑む。


「だいじょーぶ、二人とも疲れて眠ってるだけだよ。力を使いすぎたんだね。…………

こんな小さな身体に強大な魔力は負担が大きすぎる」


付け足すように囁かれた声は、礼太の耳にまで届かなかった。




















二人をベッドに寝かせた後、慈薇鬼の退魔師たちは、部屋を出て行った。


「なんかあったら言え」


ぶっきらぼうな言葉に礼太がうなづくと、希皿は微かに笑った。


「華澄ちゃんと聖くんが心配だろうけど、君も眠った方がいい。自分が思ってるより、疲れてるはずだよ」


雪政の言葉にはうなづいたが、やはり眠れない。


妹と弟の顔から髪を払ってやったり、タオルケットを掛け直してやったり、何かをしていなければ落ち着かない。


しかしどうやら、雪政の言うとおりだったらしい。


いつの間にやら、聖が眠るベッドの端に顔を伏せて、うとうとしていた。


不意に頬をつつかれて、礼太はハッと顔をあげた。


見上げると、せいぜい小学校低学年くらいの男の子がにこにこと笑っている。


『ありがとう』


男の子は高く澄んだ声で言った。


「……へ?」


状況が飲み込めない礼太が疑問符を呟くと、男の子は首をかしげて、またニコッとした。


『僕の妹を助けてくれたでしょ』


切れ長の瞳が眇められる。


そう、どこか華女を思い出させる……つまりは奈帆子を思い出させる瞳。


「君は…………隼人くん?」

『うんっ』


元気いっぱいうなづいた彼は、いたずらっぽく笑った。








< 125 / 176 >

この作品をシェア

pagetop