幻桜記妖姫奧乃伝ー花降る里で君と
「あー、奥乃おかえり」
「うん、ただいま」
和田に返事を返しながら、口元を和田の耳に寄せた。
「和田、あとで話したいことがある」
和田はキョトンとした顔で礼太を見下ろした後、ニッと笑った。
「おう、わかった」
「奥乃先輩、和田先輩もっ!話してないで止めてくださいよぉ」
篠宮が泣きそうな声で礼太たちの目の前に飛び出してきた。
「どした?」
「どしたじゃないですっ、中田先輩たち、今から百物語はじめるとか言ってるんですよ。オレ、絶対無理ですっ」
百物語?
みればさっきまでグループに分かれていたのが、ひとかたまりになって騒いでいる。
「いいじゃん、面白そう」
篠宮が怖がるのが面白いのか、和田がにやにや笑いながら言う。
「……僕も、やだなぁ」
礼太がぼそりとつぶやいたのが聴こえたらしく、和田が愉快げに頬をつついてきた。
「大丈夫だって、話するだけだろ。怖くない怖くない」
「いや……そういうことじゃなくて」
ごにょごにょと語尾が濁る。
「百物語って、あれですよね。百個怪談話したら最後にお化けが出てくるってやつっ。オレ、お化けとか一生遭遇しなくて良いですぅ」
「篠宮まだ騒いでんの、怖いんならおうち帰ってもいいぞ」
中田の口元に悪い笑みが浮かぶ。
中田の周りで彼の手元のケータイを覗き込んでいた数人がけらけらと笑った。
その二個隣に座っている乙間が珍しく渋い顔をしている。
いつもなら、こういうことにはノリノリで食いついて行くのに。
中田が再びケータイをいじり始めた。
「えっとぉ、百物語の方法」
「百物語に方法とかあるんですか?」
「なんかやり方あるって聞くじゃん、よくわかんねぇけど」
「本格的にやんの?めんどくさ」
「そんなマジになんなくてもいいと思うけど………だってさ」
中田がまっすぐに礼太の目を捉えた。
嫌な予感がする。
「奥乃がいるし、なんかあったらどうにかしてくれんだろ」
「えー、なんで」
視線が一気に礼太に集中した。
わけが分からない、という目と、意味ありげな眼差し。
「あの……やめた方が良いと思います。百物語って、よくわかんないけど下手したら一種の降霊術だと思うんです。だから……」
「こーれーじゅつ‼なにそれ、カッコいい」
止めるために言ったのに、逆に煽ってしまったようで礼太は焦った。
数ヶ月前、まだ礼太が次期当主に選ばれる前に華澄がぼそりと呟いたのを聞いたことがある。
「こっくりさんやるとか、ホント、馬鹿の極みよ」
華澄が馬鹿の極み、などと言うからには、よっぽどまずいことなのだろう。
百物語も似たようなものなのではないだろうか。
「えーと、まず蝋燭百本用意するらしい。で、あー……新月の夜にやるらしい」
「今夜、月めっちゃ綺麗ですよ。つか蝋燭百本て」
「ま、そこら辺は適当だな。青い衣を着て……体操服とテニスウェアしかねぇっての。鏡を用意……誰か持ってる?あと、結界を作る。塩など…または蝋燭で四方を固める。うーん、光ってれば良いのか?ケータイ四つ光らせればいっか」
適当も適当。
礼太が呆気に取られてるうちに、なにやら危うい会話が重ねられてゆく。
「へぇ、百物語って全部怪談じゃなくてもいいんだって。不思議な話とか因縁話でもいいんだって……因縁話ってなんだろな」
和田までもがケータイを取り出し、ネット上に流布した情報を調べ始めた。
なんだか、ちょっと良くない気がする。
「百物語ってまじで百個話しなきゃだめかなぁ」
「適当なとこで切ろうぜ。49とか良くないか、葬式から法事やんのもそこじゃん。幽霊も出てくる気になってくれそうじゃね」
……不謹慎だ。
なにやら異様な空気が武道場中に漂い始めた。
興奮が興奮の上に上塗りされて、空気がますます浮き立ってくる。
しかしそれを異様と感じているのはどうやら礼太とほんの数人だけらしかった。
「うん、ただいま」
和田に返事を返しながら、口元を和田の耳に寄せた。
「和田、あとで話したいことがある」
和田はキョトンとした顔で礼太を見下ろした後、ニッと笑った。
「おう、わかった」
「奥乃先輩、和田先輩もっ!話してないで止めてくださいよぉ」
篠宮が泣きそうな声で礼太たちの目の前に飛び出してきた。
「どした?」
「どしたじゃないですっ、中田先輩たち、今から百物語はじめるとか言ってるんですよ。オレ、絶対無理ですっ」
百物語?
みればさっきまでグループに分かれていたのが、ひとかたまりになって騒いでいる。
「いいじゃん、面白そう」
篠宮が怖がるのが面白いのか、和田がにやにや笑いながら言う。
「……僕も、やだなぁ」
礼太がぼそりとつぶやいたのが聴こえたらしく、和田が愉快げに頬をつついてきた。
「大丈夫だって、話するだけだろ。怖くない怖くない」
「いや……そういうことじゃなくて」
ごにょごにょと語尾が濁る。
「百物語って、あれですよね。百個怪談話したら最後にお化けが出てくるってやつっ。オレ、お化けとか一生遭遇しなくて良いですぅ」
「篠宮まだ騒いでんの、怖いんならおうち帰ってもいいぞ」
中田の口元に悪い笑みが浮かぶ。
中田の周りで彼の手元のケータイを覗き込んでいた数人がけらけらと笑った。
その二個隣に座っている乙間が珍しく渋い顔をしている。
いつもなら、こういうことにはノリノリで食いついて行くのに。
中田が再びケータイをいじり始めた。
「えっとぉ、百物語の方法」
「百物語に方法とかあるんですか?」
「なんかやり方あるって聞くじゃん、よくわかんねぇけど」
「本格的にやんの?めんどくさ」
「そんなマジになんなくてもいいと思うけど………だってさ」
中田がまっすぐに礼太の目を捉えた。
嫌な予感がする。
「奥乃がいるし、なんかあったらどうにかしてくれんだろ」
「えー、なんで」
視線が一気に礼太に集中した。
わけが分からない、という目と、意味ありげな眼差し。
「あの……やめた方が良いと思います。百物語って、よくわかんないけど下手したら一種の降霊術だと思うんです。だから……」
「こーれーじゅつ‼なにそれ、カッコいい」
止めるために言ったのに、逆に煽ってしまったようで礼太は焦った。
数ヶ月前、まだ礼太が次期当主に選ばれる前に華澄がぼそりと呟いたのを聞いたことがある。
「こっくりさんやるとか、ホント、馬鹿の極みよ」
華澄が馬鹿の極み、などと言うからには、よっぽどまずいことなのだろう。
百物語も似たようなものなのではないだろうか。
「えーと、まず蝋燭百本用意するらしい。で、あー……新月の夜にやるらしい」
「今夜、月めっちゃ綺麗ですよ。つか蝋燭百本て」
「ま、そこら辺は適当だな。青い衣を着て……体操服とテニスウェアしかねぇっての。鏡を用意……誰か持ってる?あと、結界を作る。塩など…または蝋燭で四方を固める。うーん、光ってれば良いのか?ケータイ四つ光らせればいっか」
適当も適当。
礼太が呆気に取られてるうちに、なにやら危うい会話が重ねられてゆく。
「へぇ、百物語って全部怪談じゃなくてもいいんだって。不思議な話とか因縁話でもいいんだって……因縁話ってなんだろな」
和田までもがケータイを取り出し、ネット上に流布した情報を調べ始めた。
なんだか、ちょっと良くない気がする。
「百物語ってまじで百個話しなきゃだめかなぁ」
「適当なとこで切ろうぜ。49とか良くないか、葬式から法事やんのもそこじゃん。幽霊も出てくる気になってくれそうじゃね」
……不謹慎だ。
なにやら異様な空気が武道場中に漂い始めた。
興奮が興奮の上に上塗りされて、空気がますます浮き立ってくる。
しかしそれを異様と感じているのはどうやら礼太とほんの数人だけらしかった。