幻桜記妖姫奧乃伝ー花降る里で君と



百物語の冒頭は忍び笑いの絶えない、妙に明るい雰囲気で始まった。


一年の穂積から始まり、三年の田代、二年の雪白へと続いてゆく。


乙間先輩は仏頂面のまま、ギャグネタにしか聞こえない話を披露し、藤川先輩は確かに怖い話をしようと努力している様子はあったが要領を得なさすぎて全く怖くなかった。


中には、「この学校の七不思議の一つに
、真夜中に二宮金次郎が校庭を走り回っているというのがあります!」で終わってしまった一年もいた。


じゃあ、今も走り回ってんじゃねえかと中田先輩がツッコミを入れてドッと湧いたが、誰も確かめに行こうとはしなかった。


少しずつ、なにやら『それらしい雰囲気』とでも言うべきものが、彼らを取り巻き始めていたからだ。


誰もが肌で感じていたが、それを口に出すものはいなかった。


百物語なんて、所詮お遊びでしかないのだ。


それを本気で怖がるなんて、変だ。













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