幻桜記妖姫奧乃伝ー花降る里で君と








話を重ねていくにつれて、部員たちの中に疲労が見え始めた。


笑い飛ばすのにも、冗談を言うのにもエネルギーがいる。


普段は有り余っているそのエネルギーが、場の空気に吸い取られているような倦怠感があった。


誰かが、こんなの馬鹿らしい、やめようぜ!と言うのを待ち構えている部員も少なくなかったが、自分が言うのは恐ろしかった。


文字通り、彼らは場の空気に呑まれていた。


いよいよ、最後の二話になった時、部員たちの顔に安堵が浮かんだ。


あと、少し。


あと少しで終わりだ。


終わりさえすれば、この笑えない遊戯をいくらでも笑えるし、面白可笑しく冗談にすることもできる。


「佐野山の怪奇って、知ってますか?」


最後から二番目の話を、二年生の秦(はた)がひっそりとした声で始めた。


佐野山、の発音に礼太はびくりとした。


幻桜が、今夜もひっそりと咲いているはずの山の名だ。


希皿が教えてくれた、あの奇っ怪な山の名。


「知ってる人は知ってる、結構有名な話なんですけど。

佐野山の場所は分かりますか?

こっからだと、時間はそれなりにかかるけど徒歩でも行ける距離にあります。

朝川中学校の校区に入ってるんです。

これは朝川中に通ってる友達から聞いた話なんですけど、あの山には昔から気味の悪い噂があったそうで、近くに住む人は絶対中に入らないそうなんです。

なんでも、深入りすると、二度と出てこられなくなるんだとか。

それで、友達は面白がって数人引き連れて佐野山に入ったそうなんです。

最初は、なんでもない、ただの山じゃんって言って笑ってたそうなんですけど、なんだかいつの間にか誰かに見られているような気がして気味が悪くなったそうです。

そしておかしな事に、いくら進んでも頂上に辿り着かない。

見ると、さっき通ったはずの三並びのお地蔵さんの前をまた通っている。

何周かして、これはどうもおかしいってことになって、引き返したそうです。

帰りはあっさり山の外に出られたようなんですけどね。

ただ、あと何周かあの山をぐるぐるまわってたら本当に出られなくなってたんじゃないかって、友達は怖がってました。

これで、おしまいです。」


秦はほとんど息継ぎもせずに話終わると、肩の荷が降りたと言わんばかりに小さくため息をついた。


(佐野山の怪奇………か)


確かにそう取られても可笑しくない。


あの美しい場所は、慈薇鬼家の術だけでなく、それによる人の噂にも守られているのだ。


(でも、真相知ってると面白いな)


恐ろしい怪談の正体が、あの仏頂面の少年とは。


「じゃ、次で最後だな……篠宮」


ひっ、と高い悲鳴が静まりかえった空気をつついた。


篠宮は可哀想なくらいカタカタ震えながら、こくりとうなづいた。





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