幻桜記妖姫奧乃伝ー花降る里で君と
第六章 前世の咎
礼太は闇の中にいた。
深い深い闇の中、いや、礼太自身が闇の一部だった。
充満する黒に身体中を侵食されている。
泣き声が聴こえる。
いや、鳴き声と言った方があっているのだろうか。
親の姿が見えなくて必死に探す雛鳥の鳴き声みたいだ。
でもそれにしては、声にはいわゆる『人間臭さ』とでも言うべきものが備わっていた。
それでいて、獣じみてもいる。
………女の泣き声
不可思議な鳴き声に混じって、確かに女の声が聞こえた。
ひたすら無垢で、何故かゾッとする響き。
耳を塞ぎたくなるような煩わしさを感じさせる、けれど、どこか哀れを誘う泣き声。
礼太は女の声にふと、懐かしさを憶えた。
ずっとずっと昔に聴いた声だ。
優しい声で怖い声。
時に唄をうたい、時に叱るその声。
そうだ。
この声は………の声だ。
懐かしくて、今でもなお慕わしい、そのヒト。
闇が礼太の呼吸を奪う。
黒を伝って、女の声が礼太の中に流れ込んできた。
息苦しくて
哀しくて
寂しくて
虚しくて
………………愛おしい
身体に纏わりついていた黒が、糸がほどけるように離れてゆく。
闇が、遠ざかる。