幻桜記妖姫奧乃伝ー花降る里で君と
「華女さん……」
「よかった、目が覚めたのね」
華女の口元の笑みは安堵に彩られていた。
ゆっくりとしゃがんで、床にぺたりと座る礼太に視線を合わせる。
そして、鉄格子に細い指を絡ませた。
「泣いていたのね」
突然の華女の登場にぼんやりとしていた礼太はハッとして、情けなく垂れ流していた涙と鼻水を拭った。
「華女さん、ぼく、ぼくは……」
「落ち着きなさい、今、ここから出してあげるから」
華女はそう言うと、懐から鍵をとり出した。
「華女さん……ここはどこなんですか」
がちゃん、と重い音を立てて鉄格子の鍵が開いた。
その音と共に答えが返ってくる。
「家の地下牢よ」
「………地下牢…」
やはり、牢屋だったらしい。
「うちに牢屋なんてあったんだ」
礼太の言葉に華女は応えなかった。
格子を開けて、礼太を促す。
「さあ、外へ出て。話さなければならないことがある」