幻桜記妖姫奧乃伝ー花降る里で君と
目をしばたたかせる礼太を無視して、廉姫はさらに続けた。


『もっとも、宗治郎の何度目かの生まれ変わり、つまりお前が生まれてくると分かった時点で、殺すという選択肢は無いに等しかった。

なぜなら、いい加減に決着をつけねばならん時がきているからだ。

宗治郎の封印は時が経つにつれてますます綻び、奥乃姫は転生を繰り返すごとに、神と崇められた太古の力を取り戻しつつある。

できるなら、今回の転生で決着をつけてしまいたい。

もしそれが叶わなければ、次の転生で奥乃の力はほぼ完全に復活し、滅ぼすことができなくなるやもしれん。

そこでお前を殺すという案は潰えたわけだが、お前を野放しにするのはかなり危険なことだった。

奥乃姫を滅ぼすか、もう一度きちんと封印し直す方法が見つかるまでお前を地下に幽閉しておくのが一番であろうと思っておった。

しかし、それは華女に断固として止められた。

所詮私は使役される身……お前の目にどう映っていようとな。

主たる華女の意志が強ければ、それに逆らうことは容易ではない。

お前を外で自由に生かすかわりに、私と華女はある取り決めをした。

それが、お前を次代の当主に据えるということであった。

当主となれば、必然お前は私を使役することとなる。

お前が当主となった暁には私は四六時中お前につきまとい、お前を……ひいてはお前の周りの人間達を、お前から守ることとなる。

そして万が一、取り返しのつかないことが起きるようであれば、お前を殺し、速やかに輪廻の輪に放り込む。

できればそんなことにはなって欲しくないが、再び転生してくるまでの時間で、何か良い方法が見つかる可能性がないではない。

屋敷の中以外では、私は当主の側でなければ存在を維持することができない。

だから、お前が次期当主に選ばれることによって与えられた束縛は、お前の人生の自由と引き換えなのだ。

地下牢で一生を終えさせたくはないという、華女がお前を想う心の代償だ』
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