幻桜記妖姫奧乃伝ー花降る里で君と
「すみません、この学校の配置図ってありますか」


一通り聞き終わった後、華澄が校長に尋ねた。


「ええ、新入生が入ってきた時に配るための簡単なものですが」


校長が立ち上がる前に、教頭がさっと席を外し、少ししてざら紙を何枚か持ってきた。


「どうぞ、この二枚が一棟の配置図です。これが二棟、これが三棟です。一棟は三階まであるので、一枚の紙におさまらなかったんですよ」


礼太たちは配置図をのぞきこんだ。


一棟の一階は職員室や今いる校長室、事務室、保健室なんかがある。


二棟の特別教室は理科室1と理科室2が二階にある。家庭科室は一階だ。そして入ったら気分が悪くなると言う視聴覚室はその隣。


三棟には美術室があった。


「この紙もらっていいですか?」


「ええ、もちろん。たくさんありますしね」


華澄はにこりと教頭に微笑みかけ、次いで礼太の方を向いた。


「兄さん」


最近、生意気な口調で兄貴としか呼ばれてなかったのでぞわっと首がそそけたった。


「…はい」


「今から言うところに丸つけていって。二重丸と丸」


分かった、と頷き自分の方に紙を引き寄せた。


「家庭科室、理科室2、2年3組は二重丸……」


華澄が指示する場所はすべて心霊現象があったとされる場所だった。


礼太は丸で囲むうちに、ある事に気づいた。


心霊現象の起こる場所は、視聴覚室を取り囲んでる……?


それはいびつな円だったが、確かに視聴覚室を取り囲んでいた。


それに二重丸を記した場所はすべて視聴覚室の近く。


「……やっぱり、ここになんかありそうよねぇ」


ふぅ、と一息ついた華澄は紙を覗き込んで視聴覚室は軽く指で叩いた。


「丸で囲んで貰ったのは、いわずもがな心霊現象があった場所。二重丸はその中でも強いっていうか、大げさな現象のあった場所。この学校の現象は、わっかりやすく視聴覚室を中心に起きてる。………校長先生」


温和な表情を崩さぬまま、校長が華澄の方を見る。


「視聴覚室と家庭科室の鍵を開けていただけないでしょうか」


今から調べに行くんで。


華澄の言葉に、礼太は顔をしかめた。


………夜の学校なんて、それだけでも勘弁なのに。



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