幻桜記妖姫奧乃伝ー花降る里で君と
血だらけになった礼太は体の力が抜けるとその場に泣き崩れた。
ガタガタとふるえて、涙が止まらない。
妖を殺してしまった感触がどうしても拭えなくて、気持ち悪くて自分がおぞましくて仕方なかった。
「………あんた…何者だ」
聞き覚えのない声に、ぼんやりと顔をあげ、礼太は固まった。
目の前に血濡れの刃物の刃先が突きつけられていたからだ。
刀と思しきものを礼太に向け、冷ややかな眼差しで見下ろしてくるのは、見知らぬ少年だった。
礼太と同い年か少し年上くらい。
端正な顔立ちに黒髪がきりりと映えている。
少年の冷たい瞳と対峙した時、礼太は妙な感覚に襲われた。
前にもこんなことがあったような、ひどく懐かしいような。
目の前の、自分に刃を向けている少年を見ていると、なぜか胸が熱くなってくる。
久しぶりだなと声をかけ、抱きつきたいような。
ぶん殴って、間抜け面をおがみたいような。
しかし、礼太は少年を知らなかった。
少年の方も、礼太を知るはずはない。
知る間柄であれば、こんなに冷たい眼差しを向けてくるはずはない。
嬉しいのか切ないのか腹立たしいのか悲しいのか、礼太には自分の心がわからなかった。
その時、バァンッと物凄い音がなって、教室の後ろのドアが吹き飛んだ。
礼太はそこで、自分があの田園風景の中から戻ってきていたことにやっと気づいた。
「兄貴………っ、て、あんた!うちらの兄貴になにしてんのよ‼」
真っ先に入ってきた華澄が、へたり込む礼太と礼太に刃を向ける少年に気づき、怒りもあらわに駆け寄ってくる。
華澄の後に続いた聖は刀を見ると聖らしからぬ険しい表情で、兄を守るように少年の前に立ちふさがった。
華澄が勢いよく抱きついてきて、礼太は後ろに倒れそうになった。
「無事で良かった!ごめん、兄貴。一人にさせるんじゃなかった。なんともない?どこか痛い?」
あえて言うなら華澄に掴まれている肩が痛かったが、妹がそばにいる安堵がはるかにまさった。
大丈夫だよ、と言おうとしたのだが声にならず、礼太は代わりにこくりとうなづき、ぎこちなく微笑んだ。
ここが心霊現象多発の夜の学校であることは変わりなかったが、礼太は自分が落ち着きを取り戻していくのが分かった。
………まるで、さっきまでの血の海がただの悪夢だったように感じられた。
礼太の服に深く染みついていたはずの鮮血は、いつの間にか跡形もなくなっていた。
ガタガタとふるえて、涙が止まらない。
妖を殺してしまった感触がどうしても拭えなくて、気持ち悪くて自分がおぞましくて仕方なかった。
「………あんた…何者だ」
聞き覚えのない声に、ぼんやりと顔をあげ、礼太は固まった。
目の前に血濡れの刃物の刃先が突きつけられていたからだ。
刀と思しきものを礼太に向け、冷ややかな眼差しで見下ろしてくるのは、見知らぬ少年だった。
礼太と同い年か少し年上くらい。
端正な顔立ちに黒髪がきりりと映えている。
少年の冷たい瞳と対峙した時、礼太は妙な感覚に襲われた。
前にもこんなことがあったような、ひどく懐かしいような。
目の前の、自分に刃を向けている少年を見ていると、なぜか胸が熱くなってくる。
久しぶりだなと声をかけ、抱きつきたいような。
ぶん殴って、間抜け面をおがみたいような。
しかし、礼太は少年を知らなかった。
少年の方も、礼太を知るはずはない。
知る間柄であれば、こんなに冷たい眼差しを向けてくるはずはない。
嬉しいのか切ないのか腹立たしいのか悲しいのか、礼太には自分の心がわからなかった。
その時、バァンッと物凄い音がなって、教室の後ろのドアが吹き飛んだ。
礼太はそこで、自分があの田園風景の中から戻ってきていたことにやっと気づいた。
「兄貴………っ、て、あんた!うちらの兄貴になにしてんのよ‼」
真っ先に入ってきた華澄が、へたり込む礼太と礼太に刃を向ける少年に気づき、怒りもあらわに駆け寄ってくる。
華澄の後に続いた聖は刀を見ると聖らしからぬ険しい表情で、兄を守るように少年の前に立ちふさがった。
華澄が勢いよく抱きついてきて、礼太は後ろに倒れそうになった。
「無事で良かった!ごめん、兄貴。一人にさせるんじゃなかった。なんともない?どこか痛い?」
あえて言うなら華澄に掴まれている肩が痛かったが、妹がそばにいる安堵がはるかにまさった。
大丈夫だよ、と言おうとしたのだが声にならず、礼太は代わりにこくりとうなづき、ぎこちなく微笑んだ。
ここが心霊現象多発の夜の学校であることは変わりなかったが、礼太は自分が落ち着きを取り戻していくのが分かった。
………まるで、さっきまでの血の海がただの悪夢だったように感じられた。
礼太の服に深く染みついていたはずの鮮血は、いつの間にか跡形もなくなっていた。