幻桜記妖姫奧乃伝ー花降る里で君と
「つうか、何であんたがここにいる訳?慈薇鬼 希皿。」


「それはこっちの台詞だ。なんでお前らがいる、奥乃」


華澄たちと少年は知り合いらしい。


敵意むき出しにお互いを睨みつける華澄とシラオニ キサラと言う少年。


「わたしたちはこの学校の校長先生に依頼されたのよ。……まさか、あんたも?」


疑わしげに問う華澄に、キサラは静かに首を横に振った。


「いいや」


少年の返答に華澄は勝ち誇ってふふんっと鼻を鳴らした。


「じゃあ、場違いなのはあんたじゃない。早々にどっか行きなさいよ」


「いやぁでもぉ、肝心の妖はうちの希皿が殺っちゃったみたいだけどぉ。」


気がついたら人が一人増えていた。


黒髪に黒縁メガネ、細身。


真面目そうな風体にそれを裏切る恐ろしく軽い口調。


口元ににやにやとうさんくさい笑みを浮かべた青年だ。


「げっ、雪政」


裕司が心底嫌そうに呟いた。


「やっほ、裕司くん。しばらくぶりぃ」


裕司が嫌がっているのが嬉しくてたまらない、とでも言うように青年は瞳をきらきらさせた。


「華澄ちゃんたちには悪いけど、この感じもう片付いちゃってるじゃん?ね、もう希皿が退魔したんでしょ。それともまさか……そこの坊やがやったわけ?」


礼太はびくりと肩を震わせた。


ちらりと少年を見上げると、ばっちり目があった。


どきりとするような深い色の眼差しが何かを探るように眇められる。


礼太の背中に冷や汗がつー、と流れた。


少年は少し間を置いて、礼太の目を見据えながら首を横にふった。


「そいつじゃない。俺がやった。そいつは腰ぬかしてただけだ。」


「ほぉらね、ハイ、奥乃御一行無駄足御苦労さまぁ」


青年はとびっきりの笑顔でピースした。


裕司に向かって。


「うざ、お前まじうざいっ」


顔を真っ赤にして青年をののしる裕司を尻目に、礼太は安堵のため息をついていた。


(そっか、僕がやったんじゃない。きっと怖すぎて変な幻覚見ちゃったんだ。第一、妖を視ることもできないのに退魔なんてできるはずない。それに……)


あんなちいさなこどもをころすなんてざんこくなことぼくにはできない




「あー、もう、こちとら正式な依頼で出向いたってのにっ。何なの?あんたら依頼されてないんでしょ?慈薇鬼の坊ちゃん方は慈善事業でもはじめたわけ?」


華澄の苛立った声に、少年が首をすくめた。


「んなわけねぇだろ、ちったぁ頭使え、馬鹿ガキ。」


「は?たかが二歳差で大人なつもりなの?」


少年は礼太と同い年らしい。


「ここ、希皿の通ってる学校なんだよ。たちの悪いのが住み着いていい加減やばいってんで本格的な退魔することにしたの。」


青年がフォローするような足早に答えた。


もっとも顔は相変わらずにやにやと一人愉快げだった。


「ねぇ、この人たち誰?」


小さな声で聖に尋ねると、苦笑いが返ってきた。


「同業者だよ。」










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