幻桜記妖姫奧乃伝ー花降る里で君と
朝御飯も食べず自分の部屋からスクールバックを持ってくると礼太は逃げるように屋敷を出た。


頭がカッカしておさまらず、しばらく足音も荒く歩いていたが、少し気分が落ち着くと、急激に虚しくなってきた。



歩幅が狭くなり、足を動かすスピードも落ちる。


肩からずり落ちそうになる鞄を緩慢な動作で戻した。


少ししたらすぐに夏休みが来る。


礼太はそのことをなるべく考えないようにしている自分に気づいていた。


夏休みに入れば、かなりの日数部活の一日練が入る。


和田を除く同級生たちの何処かよそよそしい態度。


気づくたびに憂鬱な気持ちになる。


学校に行けば、放課後が来る。


今日も顧問の気の毒がるようなうっとおしそうな視線にさらされることだろう。


いやなところから逃げ出して、またいやなところに行くのか。


そう思うと、前に進めなくなった。


しばらくそこに立ち尽くしていると、自転車に乗って通りすがったおばさんにへんな目で見られた。


さすがにずっと突っ立っているのもまずかろうと、礼太は学校とは違う方向に駆け出した。


見慣れた一角一角を通り過ぎていく。


鞄が背中で跳ねて少し痛かったが、気にならなかった。


知らないところに行きたかった。


別にそんなに遠くでなくていい。


ただ、学校にも家にも居たくない。



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