幻桜記妖姫奧乃伝ー花降る里で君と
「…妙な話だな、華女が何を考えているのかまるで分からない。その、廉姫ってやつも」
廉姫のことまで話すのは話しすぎかとも思ったが、一旦口が滑ったら止まらない。
結局、今朝のことまで洗いざらい話してしまった。
希皿には愚痴にしか聞こえなかっただろう。
「華女さんも父さんもわけわかんないよ。なんで僕のことなのに蚊帳の外に置かれなきゃならないんだ。」
「雪政から聞いた時も思ったが、妖に対抗する術を何ひとつ与えずに場には立ち会わせるなんて、みすみす死ねと言ってるようなもんじゃねぇか。」
いまいち噛み合っていない会話の中で、ふと違和感を感じ、礼太は先ほどの話に補足を加えた。
「御守りはもらったよ。華澄は九字の切り方教えてくれたし。」
「御守り?」
こくりとうなづいてみせると、今持ってるかと聞かれたので、首に下げてあった青い石を渡した。
希皿の細い指に挟まれて青色がゆらゆらときらめく。
確かにきれいだが、はじめ見たときに受けた安っぽい印象は今も抜けない。
希皿はしばらく手のひらの上でころころと遊ばせていたが、ひょい、と礼太に返すと、
「ただの色付き石にしか見えない」
と言った。
「ほんとに華女から貰ったものかよ」
「うん、我が家の秘宝の一つだって言ってた」
希皿は首を傾げた。
「なんも感じない。ファンシーショップとかで売ってそう。女子が好きな」
「ふふ、僕も最初そう思った」
華女の御守りのお陰か、希皿を包む雰囲気が少し柔らかくなった。
桃源郷のような世界に沈黙がつもる。
それは礼太にとって息苦しいものではなかった。
「ねぇ」
「ん?」
「僕さ、昨日君に初めてあった気がしなかったんだ。すごく懐かしかった。僕たち、昔会ったことがあるのかな」
横を向くと、希皿の方も礼太を見ていた。
仏頂面だったが、瞳の色はけして冷たくはなかった。
希皿は数秒沈黙をおくと、首を横に振った。
「いや、はじめてだと思う。あんたの妹と弟は仕事絡みで昔っから知ってるけど、あんたには会ったことない」
「……そっか」
礼太は内心がっかりしている自分に困惑しながらなんとか笑顔をつくった。
「悪いな、さっきはいろいろまくし立てて」
「別に悪くはないよ。家の中じゃ誰も教えてくれなかったことを教えてくれた」
「…あのなぁ」
希皿は心底あきれたというようにため息をついた。
「俺があんたに嘘八百ついてる可能性だってあるんだぞ。さすがにうちとあんたの家の確執ぐらいは知ってんだろ。少しは疑おうとか思わないわけ」
「奥乃と慈薇鬼の確執ってそんなに根深いの」
「……そこじゃねえよ」
あきれられても困る。
慈薇鬼家の存在を昨日知ったのだ。
華澄たちの態度からして仲がよろしくないのは十分わかったが、確執、なんて仰々しい言葉が使われるほどに家同士で仲が悪いのだろうか。
「ま、そのへんは気にしなくていい。あんたが本当に当主になるなら、いずれ嫌でも気にすることになる」
ただし、と希皿は続けた。
「もうちょっと人を疑うことを知れ。この世界で生きていくにはあんた素直すぎる。何で初対面同然の俺に対してあそこまで自分のことべらべら喋れるんだ」
礼太は首を傾げた。
素直。自分にはおよそ似つかわしくない言葉だ。
しかしこの少年が相手だと何故か気が緩む。
確かに喋りすぎだと自分で感じていたのに、止められなかった。
希皿の何が礼太の警戒心を鈍らせるのか。
礼太自身が一番よく分かっていなかった。
廉姫のことまで話すのは話しすぎかとも思ったが、一旦口が滑ったら止まらない。
結局、今朝のことまで洗いざらい話してしまった。
希皿には愚痴にしか聞こえなかっただろう。
「華女さんも父さんもわけわかんないよ。なんで僕のことなのに蚊帳の外に置かれなきゃならないんだ。」
「雪政から聞いた時も思ったが、妖に対抗する術を何ひとつ与えずに場には立ち会わせるなんて、みすみす死ねと言ってるようなもんじゃねぇか。」
いまいち噛み合っていない会話の中で、ふと違和感を感じ、礼太は先ほどの話に補足を加えた。
「御守りはもらったよ。華澄は九字の切り方教えてくれたし。」
「御守り?」
こくりとうなづいてみせると、今持ってるかと聞かれたので、首に下げてあった青い石を渡した。
希皿の細い指に挟まれて青色がゆらゆらときらめく。
確かにきれいだが、はじめ見たときに受けた安っぽい印象は今も抜けない。
希皿はしばらく手のひらの上でころころと遊ばせていたが、ひょい、と礼太に返すと、
「ただの色付き石にしか見えない」
と言った。
「ほんとに華女から貰ったものかよ」
「うん、我が家の秘宝の一つだって言ってた」
希皿は首を傾げた。
「なんも感じない。ファンシーショップとかで売ってそう。女子が好きな」
「ふふ、僕も最初そう思った」
華女の御守りのお陰か、希皿を包む雰囲気が少し柔らかくなった。
桃源郷のような世界に沈黙がつもる。
それは礼太にとって息苦しいものではなかった。
「ねぇ」
「ん?」
「僕さ、昨日君に初めてあった気がしなかったんだ。すごく懐かしかった。僕たち、昔会ったことがあるのかな」
横を向くと、希皿の方も礼太を見ていた。
仏頂面だったが、瞳の色はけして冷たくはなかった。
希皿は数秒沈黙をおくと、首を横に振った。
「いや、はじめてだと思う。あんたの妹と弟は仕事絡みで昔っから知ってるけど、あんたには会ったことない」
「……そっか」
礼太は内心がっかりしている自分に困惑しながらなんとか笑顔をつくった。
「悪いな、さっきはいろいろまくし立てて」
「別に悪くはないよ。家の中じゃ誰も教えてくれなかったことを教えてくれた」
「…あのなぁ」
希皿は心底あきれたというようにため息をついた。
「俺があんたに嘘八百ついてる可能性だってあるんだぞ。さすがにうちとあんたの家の確執ぐらいは知ってんだろ。少しは疑おうとか思わないわけ」
「奥乃と慈薇鬼の確執ってそんなに根深いの」
「……そこじゃねえよ」
あきれられても困る。
慈薇鬼家の存在を昨日知ったのだ。
華澄たちの態度からして仲がよろしくないのは十分わかったが、確執、なんて仰々しい言葉が使われるほどに家同士で仲が悪いのだろうか。
「ま、そのへんは気にしなくていい。あんたが本当に当主になるなら、いずれ嫌でも気にすることになる」
ただし、と希皿は続けた。
「もうちょっと人を疑うことを知れ。この世界で生きていくにはあんた素直すぎる。何で初対面同然の俺に対してあそこまで自分のことべらべら喋れるんだ」
礼太は首を傾げた。
素直。自分にはおよそ似つかわしくない言葉だ。
しかしこの少年が相手だと何故か気が緩む。
確かに喋りすぎだと自分で感じていたのに、止められなかった。
希皿の何が礼太の警戒心を鈍らせるのか。
礼太自身が一番よく分かっていなかった。