幻桜記妖姫奧乃伝ー花降る里で君と
幻桜に守られたその空間にいる間、時の流れが緩やかに感じられた。


今朝の出来事が、ずっと昔のことのように思われる。


華女と父に対する怒りが遠のいてゆく。


希皿は文句をつけこそすれ、礼太に帰れ
とは言わなかった。


希皿自身もそこにとどまり、ぼんやりとしている。


まさに俗世間から隔離された夢の世界のような場所だった。


礼太は時が過ぎるのにまかせながら、先ほどまでの少々剣呑な会話を払拭するように希皿に話しかけた。


昨日あれほど冷たい印象を礼太にあたえた少年は、めんどくさそうな顔をしつつ応えてくれた。


礼太は不思議だった。


今まで、家族以外の人間と自分から進んで関わりを持とうとしたことがなかった。


それが希皿が相手だと自分から話しかけることが苦ではない。


話しかけられている希皿の方はどうか知らないが、礼太の心は久しぶりに心地よく弾んでいた。











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