幻桜記妖姫奧乃伝ー花降る里で君と
数学の解答の説明なんて、子守歌にしかならない。
がくりがくりと重たい首を不屈の精神であげようとするが、いつの間にかまた目を閉じている。
「奥乃、眠たいんなら立っとくか」
平坦な声で教師に名前を呼ばれ、礼太はびくりと顔を起こした。
ここ最近、いくら寝ても寝た気がしない。
それもこれもあの奇妙な夢のせいだ。
近頃、毎日同じ夢を見る。
舞台は封建時代と思しき農村で、夢の中での礼太は宗治郎と呼ばれている。
礼太に似ても似つかない彼は、ある時はまだ五つにもならない幼子で、またある時には立派な青年だった。
毎日毎日、礼太は宗治郎になる。
夢があまりにリアルすぎて、まるで二重生活を送っているようなのだ。
眠りから覚めた時に感じるちょっとした疲労感が、ここ最近の礼太を悩ませている。