幻桜記妖姫奧乃伝ー花降る里で君と
気だるげな仕草で髪をかきあげながら(髪型が華女に似ている……これは華澄が気に入らないだろうと思われた)、折角のきれいな顔を臭い匂いでも嗅ぎつけたかのようにしかめ、奈帆子は部屋の中に入ってきた。
隣の華澄がサッと立ち上がった気配を感じて、礼太も慌てて立ち上がる。
「子供だとは聞いてたけど、ほんとにチビじゃない。まさか詐欺じゃないでしょうね」
ひくっと頬が痙攣する。
次の瞬間には華澄に思いっきり足を踏まれて飛び跳ねたいのを我慢しなければならなかった。
どうやら、依頼主に失礼な顔を向けるなという警告らしい。
とうの華澄からも明らかに不穏な空気が漂っていた。
しかし、依頼主にそれを気づかせる華澄ではない。
「若輩ながら、精一杯お役に立てるよう精進致します。しかし万が一、力が及ばなかった場合は代金は一切頂きませんので、ご安心下さい」
礼儀正しい口調。無邪気さすら感じる、不自然なほど明るい声音に、礼太は身震いした。
「あっそう。……で?」
「………」
奈帆子が何を求めているのか分からず、礼太は困惑した。
「名乗りなさいって言ってんのよ。」
イラついた様子で催促され、そうならそうとはっきり言ってくれ、と心の中で叫んだ。
「……申し訳ありません。奥乃 華澄です。」
「お、奥乃 聖です」
「奥乃 礼太……です」
聖が名乗ったとき、奈帆子の顔が一瞬ほころぶのを確かに見た気がした。
どうやら、奈帆子も聖の見た目が好きな女性の一人らしい。
礼太の名前を聞いていたかちょっとあやしい。
「もう、奈帆子、お盆を運ぶ手伝いくらいしてくれてもいいじゃない」
五人分のカップを載せた盆を持って、先ほどの白髪の女性が少々危なっかしく入ってくる。
「ママ、この子たち、奥乃家っていうところから来た退魔師さんたち。」
奈帆子は母親の言ったことを全く無視して唐突に言った。
母親の方がいぶかしげな顔をする。
「タイマシ?ホームステイか何か?」
「もう、違うわよ。妖怪とか幽霊とかを祓ってくれる陰陽師みたいな人。安倍晴明的な」
空気がぴきっと音をたてた。
白髪の婦人がまとっていたやわらかな雰囲気が霧散し、とげとげしいものに取って代わるのを、確かに感じた。
隣の華澄がサッと立ち上がった気配を感じて、礼太も慌てて立ち上がる。
「子供だとは聞いてたけど、ほんとにチビじゃない。まさか詐欺じゃないでしょうね」
ひくっと頬が痙攣する。
次の瞬間には華澄に思いっきり足を踏まれて飛び跳ねたいのを我慢しなければならなかった。
どうやら、依頼主に失礼な顔を向けるなという警告らしい。
とうの華澄からも明らかに不穏な空気が漂っていた。
しかし、依頼主にそれを気づかせる華澄ではない。
「若輩ながら、精一杯お役に立てるよう精進致します。しかし万が一、力が及ばなかった場合は代金は一切頂きませんので、ご安心下さい」
礼儀正しい口調。無邪気さすら感じる、不自然なほど明るい声音に、礼太は身震いした。
「あっそう。……で?」
「………」
奈帆子が何を求めているのか分からず、礼太は困惑した。
「名乗りなさいって言ってんのよ。」
イラついた様子で催促され、そうならそうとはっきり言ってくれ、と心の中で叫んだ。
「……申し訳ありません。奥乃 華澄です。」
「お、奥乃 聖です」
「奥乃 礼太……です」
聖が名乗ったとき、奈帆子の顔が一瞬ほころぶのを確かに見た気がした。
どうやら、奈帆子も聖の見た目が好きな女性の一人らしい。
礼太の名前を聞いていたかちょっとあやしい。
「もう、奈帆子、お盆を運ぶ手伝いくらいしてくれてもいいじゃない」
五人分のカップを載せた盆を持って、先ほどの白髪の女性が少々危なっかしく入ってくる。
「ママ、この子たち、奥乃家っていうところから来た退魔師さんたち。」
奈帆子は母親の言ったことを全く無視して唐突に言った。
母親の方がいぶかしげな顔をする。
「タイマシ?ホームステイか何か?」
「もう、違うわよ。妖怪とか幽霊とかを祓ってくれる陰陽師みたいな人。安倍晴明的な」
空気がぴきっと音をたてた。
白髪の婦人がまとっていたやわらかな雰囲気が霧散し、とげとげしいものに取って代わるのを、確かに感じた。