幻桜記妖姫奧乃伝ー花降る里で君と
「ほんとうにすまない。どうも娘とわたしの方で行き違いがあったようで」
案内されたのはやたら長い燭台のある部屋だった。
ここにもいくつか奇妙な絵がかかっており、独特の雰囲気を醸し出していた。
和のつけいる隙などまるでない洋式の部屋だったが、どこか礼太たちの家にある舞禅の間を思わせた。
父親と娘が向かいあって座り、雇われ者たちはそれぞれの雇い主の隣に座らされた。
「ええと、君たちが慈薇鬼さんとこの坊っちゃんたちでいいんだよね。で、君たちが……」
何故か、つまった主人の言葉を継いだのは奈帆子ではなく希皿と同行していた雪政だった。
前に会ったときと変わらず華女と張るくらい喰えない顔をしている。
「退魔師一族奥乃本家の三兄弟、礼太くん華澄ちゃん聖くん」
「おや、知り合いかね」
「ええ、同業者のよしみで」
これでもかと睨みつける華澄を飄々と無視して雪政は愛想良く言った。
「そうか、そうなのか」
奈帆子の父親はいくらか気が楽になったらしく表情を和ませた。
「ええと、大変申し訳ないんだが…」
「わたしが雇った子たちがいるから、あんたら帰っていいわよ。ええと、シラオニさんだっけ?」
唐突に口を挟んだ奈帆子は言いにくいことをずけずけと言い放った。
ずっと片手で髪の毛先を弄んでいる。
さすがの雪政もぴきりと笑顔が固まったのがみてとれた。
隣の希皿は変わらず憮然としている。
礼太は隣の妹がめちゃめちゃ嬉しそうなのを気配で感じとってため息をつきそうになった。
華澄の方をちらりと見た後、雪政はたちまち胡散臭い笑みを取り戻し、丁寧ながら奈帆子に言い返した。
「申し訳ありません。しかしわれわれとしては前金をいただいているのにこのまま引き返すわけにはいかないので」
「あっそ、じゃ好きにすれば」
奈帆子としてはどちらでも良かったらしく、あっさりと引き下がった。
「ええと……君たちはどうするかね」
父親は親切そうな表層を崩さなかったが、どちらかと言えば帰ってほしいのだと見て取れた。
妖事は厄介事だ。
怪しげな連中を雇うのはなかなか覚悟がいることだ。
それが外に漏れれば嘲笑されること間違いなし。
変な勧誘が増えたりもするかもしれない。
関わる人間が増えれば増えるほど、厄介を呼び寄せる可能性も高くなる。
面倒を背負い込むリスクはなるべく減らしたいというのが人情というものだろう。
もっとも、こんな山奥に住んでいるのでは口さがない世間の耳ともあまり関わり合いがなかろうと思われたが。
「あの……僕たち依頼内容のことは絶対に外に漏らしたりしません」
華澄たちが少し驚いた顔を向けてくる。
礼太が仕事に関わることで自発的に発言することなど、これまでなかったからだ。
希皿たちは礼太の脈絡のない発言に困惑したようだが、この家の主人は礼太の意図するところを汲み取ったらしく、いやぁ、もちろんそうだよ、うん、としどろもどろに答えた。
所詮子供だと心のどこかで侮っていたのかもしれない。
案内されたのはやたら長い燭台のある部屋だった。
ここにもいくつか奇妙な絵がかかっており、独特の雰囲気を醸し出していた。
和のつけいる隙などまるでない洋式の部屋だったが、どこか礼太たちの家にある舞禅の間を思わせた。
父親と娘が向かいあって座り、雇われ者たちはそれぞれの雇い主の隣に座らされた。
「ええと、君たちが慈薇鬼さんとこの坊っちゃんたちでいいんだよね。で、君たちが……」
何故か、つまった主人の言葉を継いだのは奈帆子ではなく希皿と同行していた雪政だった。
前に会ったときと変わらず華女と張るくらい喰えない顔をしている。
「退魔師一族奥乃本家の三兄弟、礼太くん華澄ちゃん聖くん」
「おや、知り合いかね」
「ええ、同業者のよしみで」
これでもかと睨みつける華澄を飄々と無視して雪政は愛想良く言った。
「そうか、そうなのか」
奈帆子の父親はいくらか気が楽になったらしく表情を和ませた。
「ええと、大変申し訳ないんだが…」
「わたしが雇った子たちがいるから、あんたら帰っていいわよ。ええと、シラオニさんだっけ?」
唐突に口を挟んだ奈帆子は言いにくいことをずけずけと言い放った。
ずっと片手で髪の毛先を弄んでいる。
さすがの雪政もぴきりと笑顔が固まったのがみてとれた。
隣の希皿は変わらず憮然としている。
礼太は隣の妹がめちゃめちゃ嬉しそうなのを気配で感じとってため息をつきそうになった。
華澄の方をちらりと見た後、雪政はたちまち胡散臭い笑みを取り戻し、丁寧ながら奈帆子に言い返した。
「申し訳ありません。しかしわれわれとしては前金をいただいているのにこのまま引き返すわけにはいかないので」
「あっそ、じゃ好きにすれば」
奈帆子としてはどちらでも良かったらしく、あっさりと引き下がった。
「ええと……君たちはどうするかね」
父親は親切そうな表層を崩さなかったが、どちらかと言えば帰ってほしいのだと見て取れた。
妖事は厄介事だ。
怪しげな連中を雇うのはなかなか覚悟がいることだ。
それが外に漏れれば嘲笑されること間違いなし。
変な勧誘が増えたりもするかもしれない。
関わる人間が増えれば増えるほど、厄介を呼び寄せる可能性も高くなる。
面倒を背負い込むリスクはなるべく減らしたいというのが人情というものだろう。
もっとも、こんな山奥に住んでいるのでは口さがない世間の耳ともあまり関わり合いがなかろうと思われたが。
「あの……僕たち依頼内容のことは絶対に外に漏らしたりしません」
華澄たちが少し驚いた顔を向けてくる。
礼太が仕事に関わることで自発的に発言することなど、これまでなかったからだ。
希皿たちは礼太の脈絡のない発言に困惑したようだが、この家の主人は礼太の意図するところを汲み取ったらしく、いやぁ、もちろんそうだよ、うん、としどろもどろに答えた。
所詮子供だと心のどこかで侮っていたのかもしれない。