幻桜記妖姫奧乃伝ー花降る里で君と
一番前の襖がすぅっと開けられて、いつもと同じ深紅の着物を着た華女が姿を現した。
上座の特等席に悠然と腰をおろし、戦国時代の姫君よろしく妖艶に微笑んでいるのが、遠くからでも分かった。
一族の者たちの騒ぐ声が、少しずつ静まってゆく。
そして、最後の一人が主の存在に気づくまで、現当主はけして声をあげようとはしなかった。
「皆さん、長旅ご苦労様。多いにくつろぎ、多いに食べましたか。」
静まりかえった舞禅の間に、華女の柔らかい声が響く。
けして大きな声を出しているわけではないが、よく聴こえた。
「このたび、こうしてお集まり頂いたのは……もちろん、皆さんご存知でしょうが、次期当主の名を、一族に知らしめるためです。」
誰一人、目配せすらせず、華女の言葉に聞き入っていた。
礼太は一人、小さく唇をかみしめる。
「次期当主は、その者が生まれた時から決まっておりました。『廉姫』の意向には、何人たりとも逆らえない。」
華女はしばし目をつむり、沈黙した。
外の風の音すら聴こえぬ、静寂がその場を支配した。
そう、それはまるで、嵐の前の静けさ。
「次期当主は、我が兄、照彦が長子
………………………礼太。」
目の前が真っ白になった。
上座の特等席に悠然と腰をおろし、戦国時代の姫君よろしく妖艶に微笑んでいるのが、遠くからでも分かった。
一族の者たちの騒ぐ声が、少しずつ静まってゆく。
そして、最後の一人が主の存在に気づくまで、現当主はけして声をあげようとはしなかった。
「皆さん、長旅ご苦労様。多いにくつろぎ、多いに食べましたか。」
静まりかえった舞禅の間に、華女の柔らかい声が響く。
けして大きな声を出しているわけではないが、よく聴こえた。
「このたび、こうしてお集まり頂いたのは……もちろん、皆さんご存知でしょうが、次期当主の名を、一族に知らしめるためです。」
誰一人、目配せすらせず、華女の言葉に聞き入っていた。
礼太は一人、小さく唇をかみしめる。
「次期当主は、その者が生まれた時から決まっておりました。『廉姫』の意向には、何人たりとも逆らえない。」
華女はしばし目をつむり、沈黙した。
外の風の音すら聴こえぬ、静寂がその場を支配した。
そう、それはまるで、嵐の前の静けさ。
「次期当主は、我が兄、照彦が長子
………………………礼太。」
目の前が真っ白になった。