幻桜記妖姫奧乃伝ー花降る里で君と
礼太たちはひとまず、屋敷の中を案内してもらうことになった。


これだけ広い家となると、どこに何があるか把握するのも一苦労だ。


しかし、万が一の場合に備えて自分のいる場所の配置を知っておくのは必要不可欠なことだ。


礼太たちを雇ったのは奈帆子だったが、案内は慈薇鬼の二人を雇った旦那さんがいっぺんにしてくれた。


中に入って実際にうろうろしてみると、外観から受ける印象よりもさらに広いことが分かった。


三階まであるが、日頃使っているのは一階だけらしい。


二階はお客が来た時に客室として使っている部屋と、後は物置。


三階は一階に比べてだいぶ天井が低く、なんだか埃臭かった。


三階はまず使うことがないからあまり掃除をしないのだと、旦那さんは少し恥ずかしそうに言った。


「お手伝いさんはいないんですか?」


これだけ大きな屋敷だと、三人だけでは手がまわりきらない気がする。


「うん……前はいたんだがね、暇を出してもう何年経ったか分からないな」


一つ一つの部屋を見てまわりながら、礼太が気にしていたのは弟の顔色だった。


聖は誘引体質のせいで、妖の存在に影響されやすい。


しかし、この山に入ってから今まで、至って平気そうな顔をしている。


ここには、聖に影響を及ぼすほどの妖はいないということだろうか。


礼太は妹と弟に尋ねてみたかったが、旦那さんの前でそんなことを言うのは憚られた。


退魔師を雇う人は、それが事実であろうとなかろうと、自分の身に降りかかる怪奇はホンモノだと信じているものだ。


否定するようなことを言われれば好い気はしないだろう。


希皿のことも気になって仕方がない。


話しかけたかったが、華澄がどんな顔をするか分からない。


いつそんなに親しくなったんだと物凄い剣幕で詰め寄られそうだ。


もっとも、ちょくちょく会っている今でも礼太と希皿はそんなに親しいとは言えない。


その証拠に、希皿は礼太には一瞥もくれず涼しい顔をしている。


無視されているような気分になって、礼太は少しムッとなった。



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