幻桜記妖姫奧乃伝ー花降る里で君と
三階をひとしきり案内してもらい、礼太たちは二階に降りた。


「君たちには二階の客室を使ってもらおう。足りないものがあればいつでも言ってくれていい。ああ、一人一部屋がいいかな、それとも」


「俺たちは別々の部屋で」


希皿がきっぱりと言った。


旦那さんがそれにうなづき、君たちはどうだと礼太たちの方を向く。


「三人同じ部屋でお願いします」


華澄がなんの躊躇も見せずに言った。


曰くありの場所で、誘引体質の弟と役立たずの兄を目の届かない場所に置くのは怖いのだろう。


「いやー、仲が良いねぇ」


にやにやと笑いながら言ったのは雪政だった。


真面目そうな風体に似合わず軽い口調がひどく癇に障る。


三兄弟が同時に剣呑な眼差しを向けてもどこ吹く風だ。


人を喰ったような態度が染み付いているのだろう。


朝川中学で裕司が思わず『げっ、雪政』と漏らした気持ちがよくわかる。


三人を見下ろしながら雪政がにこっと笑った時、屋敷がギシギシと鳴り始めた。


ギシギシギウギウギシギシ


礼太はハッと緊張して身構えたが、10秒もすると止んでしまった。


このくらいは慣れたものなのか、旦那さんは首をすくめてみせた。


「やれ、今のは少し長かったな」













< 83 / 176 >

この作品をシェア

pagetop