幻桜記妖姫奧乃伝ー花降る里で君と







お昼時になっても奥さんは姿を現さなかった。


礼太たちが案内されている間に奈帆子は昼食の準備をしてくれていた。


奈帆子は意外なことに料理が得意らしい。


たらこスパゲティに茄子の煮物、揚げ豆腐にシーザーサラダと何となくちぐはぐしていたが、それぞれの品は驚くほど美味しかった。


プチトマトをどう始末をつけてやろうかと睨みつけていると12人掛けの長テーブルの丁度向かい側に座っていた雪政が胡散臭いことこの上ない笑みを浮かべながら、礼太に尋ねてきた。


「ねぇ、今回は祐司くんは来ないの」


礼太は愛想の良い顔を警戒しながら慎重にうなづいた。


「はい……たぶん」


「そっかぁ、残念だなぁ、つまんなーい」


拗ねたように口を尖らせる。


「高校卒業するまでは結構会えてたんだけどなぁ、大学じゃ学部違うからそうそう会えないんだよ」


「大学一緒なんですか」


「うん、知らなかったの」


「はい」


そもそも、裕司に会ったのはあの一回きりでしかない。


ほとんど何も知らないのだ。


「で、駆け出しくんはどんな調子よ」


にやにやと笑いかけてくる雪政に、礼太は顔をしかめた。


「……兄さんに構わないで」


小さな声でそう言ったのは、驚くことに聖だった。


雪政がおかしそうに微笑む。


「えー、調子どうって聞いただけじゃん」


聖はむぅと雪政を睨みつけただけで、あとは何も言わなかった。


「もしかしなくても、末っ子くんに嫌われてる?」


しくしくと泣き真似をする雪政に、


「今さら」


と希皿が鼻を鳴らした。


「あら、あんたらって仲悪いの」


会話を聞きつけたらしい奈帆子が興味深げに聞いてくる。


「はい、ものすごく」


雪政はこの問いにやたら真面目くさって応え、小さくぷっと吹き出した。
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