幻桜記妖姫奧乃伝ー花降る里で君と
うふふ、ふふ


はっきりと聴こえた笑い声に、礼太はびくりと肩を震わせた。









夜になり、礼太たち兄弟は割り当てられた部屋に引っ込んでいた。


ベッドが二つと、簡易ベッドが備えてある。


アンティークチックな調度品が備えられた部屋に、礼太は内心びくびくしていた。


普段、畳の部屋で過ごしているせいで西洋っぽい雰囲気に慣れないのだ。


「このベッドっ、すごぉく、ふかっとしてるっ」


言葉の切れ間にぴょんぴょんとベッドのバネで跳ねる聖に、華澄が渋い顔をした。


「あのねぇ、ここよそのお家なのよ、しかも家鳴りがするって悩んでる御宅なの。あんたが鳴らしてどうすんの」


聖はたちまちしゅんとなっておとなしくなった。


「ねぇ、この家って何かいるの」


尋ねると、華澄は微妙な顔をした。


「うーん、特に強い存在は感じないのよねぇ。」


華澄は唇を尖らせ、鏡台の椅子の上で足をブラブラさせながら、聖の方を向いた。


妖や霊を察知する能力は、聖の方が上であるらしい。


姉に目で促され、聖は口を開いた。


「……妖霊の類は感じない。でも、ヒトリすごく存在感のある霊がいる。兄さんくらいの歳の男の子」


「それって……」


14の時に亡くなったという、辻夫婦の息子の隼人?


聖はこくりとうなづいた。


「多分、そうだと思う。でも、彼自身に怨念は感じないんだ。むしろ……」


そのとき、くすくす、と心底楽しげな笑い声が天井から聴こえた。


今日だけで、何度聴いたか分からない奇妙な笑い声。


「……楽しそう。現世で迷ってるとは思えないくらい。そうでしょ?」


弟の言葉に、確かに、と兄と姉がうなづく。


聖は寸の間躊躇うような仕草をみせて、言葉を続けた。


「……僕、この山に入った時、確かにただならぬ気配を感じたんだ。でも、この屋敷に入った途端、すっと消えちゃった。この家は……逆に綺麗すぎる」


その言葉に、華澄が激しくうなづいた。


「そう、そうなの!普通なんの怪奇現象も起こらないところだって、もう少し淀みがあって当たり前なのにこの家、妙に綺麗なの……不自然なくらい」


華澄が眉を下げ、珍しく気弱な表情を見せた。


そういえば、今朝はなんだかやけにおとなしかったよな、と思い出して心配になる。


しかし、華澄は次の瞬間にひどく嬉しそうな顔をして見せた。


「それにしてもっ、あの奥さん最高じゃない?あーあ、玄関で追い出されそうになる慈薇鬼の坊やたちを生で見たかった!」


「……不謹慎だな」


「だって、雪政が慌てるところなんて、まず見れないのよ?貴重じゃない」


「あの人のことだから、追い出されそうになっても飄々としてたんじゃない?」


聖はどうも雪政が嫌いらしかった。




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