幻桜記妖姫奧乃伝ー花降る里で君と
話し終えると、希皿は早々に帰って行った。


曰く、華澄と聖に出くわしたらめんどくさい、と。


礼太もそれ以上引き止めはしなかった。


ベッドの上にどさりと身を投げて、ドタドタと音のする天井をぼんやりと見上げる。


華女の望み……見当もつかない。


勿論、礼太は雪政のようにはなから華女に何かしでかそうという気があるとは思っていない。


ついでに言えば、霊を集める理由は前に聖が話してくれたそのままだと思いたかった。


……それに、霊を集めるよう指示を出しているのが華女とは限らない。


廉姫、かもしれない。


もしそうなら、その意図は計り知れない。


気の遠くなるような時を超えてきた妖の姫君の考えなど、推し量れるものではない。


そういえば、希皿たちはどうやって奥乃の退魔師たちが霊を本家に集めていることを知ったのだろうか。


奥乃の屋敷は外からでも分かるほどに、とんでもない空気を撒き散らしているのだろうか。


華澄や聖は、建物や敷地を見ただけで、やばい、とかそうでもない、とか判断を下す。


礼太が同行した中で『やばい』カテゴリに入っていたのは朝川中学校だけだった。


滅多にない『やばい』カテゴリにうちも当てはまるのだろうか。


でも、朝川中学校では卒倒しかけた聖もうちの中ではぴんぴんしている。


「たーだいま、兄貴」


「あー、おかえり」


外は寒かったのか、帰ってきた華澄と聖の頬は少し赤くなっていた。


「夏だから油断してたっ、虫除けスプレーは持ってきてたけど、こんな寒いと思ってなかった。」


「おつかれ」


華澄はくるりと毛布にくるまって礼太に背を向けた。


「どうだったの」


華澄はお疲れのようだったので聖に尋ねると、曖昧な返事がかえってきた。


「うーん、なんとも」


「なんとも?」


「寒気がする。気味が悪い。明らかにこのあたり一帯おかしいよ。でも、決定的な何かは感じない」


どうしてだか聖は少し不満げで、ぷくりと頬を膨らませた。


「それに屋敷の中が綺麗すぎるのも気になる……でもそれだけなの。……あいつらには負けたくないのに」


どうやら、聖も『勝ち』にこだわっているらしい。








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