幻桜記妖姫奧乃伝ー花降る里で君と
その日、聖は兄、姉とは別行動をとることになった。


「僕、隼人くんを探してみようと思う」


大きな瞳で礼太と華澄を見上げながら、聖はそう言った。


「隼人くんは……多分、生前隼人くんだった霊がこの屋敷の中で強い存在感を持ってる。霊にしては物凄く強いの。もしかしたら妖霊になりかけているのかもしれない。この屋敷の中が妙な空気がただよう山中にあるのに、おかしなくらいに清浄なのは、もしかしたら隼人くんが家族を護ろうとしてるからかもしれない。彼なら知ってることを教えてくれるかも……おじさんの首を締めにくる霊や、猫を殺したモノのこと。」


華澄は少し渋い顔をしていたが、弟の決心滲む顔を見て、おーけー、とうなづいた。


誘引体質のために妖の類に好かれやすい聖を一人にするのは危険が伴うことだが、聖一人の方が隼人を見つけられる勝算は高い。


「聖が隼人くんを探してる間、わたしと兄貴は外をうろついてみるわ。昨夜はたいした収穫はなかったけど…ま、単純に視覚でとられられるものなら、昼間の方が探しやすいしね。…聖」


心配性のお姉さまは怖い顔をして忠告するのを忘れなかった。


「いい?わたしたちが戻るまで、屋敷の中をでちゃだめよ。」
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