幻桜記妖姫奧乃伝ー花降る里で君と
もしかしたら、毎晩旦那さんのもとに現れる幽霊は生き霊かもしれない。


華澄は言った。


「毎晩現れてたのに昨晩は現れなかった。これって、もしかしたら雪政たちが張り込むことを知ってたってことじゃない?あいつらだって、張り込む最中に気配けどられるほどヘボじゃないわ。もし、意図的に昨晩は姿を見せなかったのなら、生き霊の可能性が高い。『人間的』な行動をとるのは、やっぱり生きてる人間だから。加えてこんな山奥に住んでるんだもの、家族以外と深い接触があることはそうそうないはずよ。もし、生き霊なら、おそらく奈帆子か奥さん」


「な、奈帆子さんか奥さんが旦那さんを殺したがってるの?」


驚いたせいで声がかすれた。


奈帆子はそりゃあ愛想はないが、父親と仲が悪いように見えない。


奥さんはおそらく、普段は優しい人なのだろう。


無害そうに見えるのに。


信じられないという顔をしてあんぐり口を開ける礼太に、華澄は苦笑いした。


「すんごい顔。別に二人のどっちかが本気で旦那さんを殺したがってるなんて思ってないよ。生き霊っていうのは、良いような悪いような、本人無意識なことの方が多い。心の中に潜んでいた感情とかの箍がちょっとした拍子に外れて出てきてしまうものなの。代々、生き霊を出しやすい血筋というのもあるしね。だから、一概に責めれることでもないわ。」


妙に大人くさいしたり顔で言うと、華澄はまた背を向けて歩き出した。


礼太も慌てて後を追った。



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