幻桜記妖姫奧乃伝ー花降る里で君と
聖の宣言通り午後は、おそらく隼人であろう幽霊の探索につぎ込むことになった。


三人手分けして探すというので、礼太は首をかしげた。


「……僕、幽霊視えないんだけど」


たとえ目の前に顔があったとしても視えないのでは意味がない。


華澄は分かってる、と言ってうなづいた。


「別に期待はしてないけど。でも、まぐれってことはあると思うの、この霊に関しては。聖によればかなり変わってるみたいだし、兄貴に興味がわけば近寄ってくるかもしれない、視えなかったら、まぁ、その時はその時。」


そして、こんなことは始めてだと、華澄は顔をしかめる。


「ふつう、幽霊って追っかけ回して見つけられるもんでもないんだけど。聖みたいな誘引体質なら別だけど」


くすくす、また笑い声が天井から降ってきた。


今ならなんとなく分かる。


これは、声変わりする前の男の子の声だ。


さて、どうしたものか。


でも、華澄の言うとおり隼人が礼太に興味を持つ可能性は高いように思う。


たしか、隼人が亡くなったのは礼太と同い年の時だ。


そこでふと、これから幽霊を探すというのに、恐怖を感じていない自分に気づく。


だいぶ、慣れてきたんだろうか。


いいや、そんなことはない。


怖いものは怖いまま。


朝川中学の件なんて思い出すのも嫌だ。


でも、隼人くんに関しては、恐怖を感じる必要はないように思えた。




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