あなたと私のカネアイ
 円さんはそのまま手をブラックカードから離してウイスキーのグラスを掴んだ。
 そしてまた一口形の整った唇へと流し、グラスをテーブルに置く。
 氷が音をたて、グラスについた水滴がその側面を流れていく。私の背中を伝うのは汗。

「ここで俺を拒否したとして……この先、三つの条件に当てはまる男が見つかる可能性は、今日より低いと思わない?」

 眼鏡の奥の目が真っ直ぐに私を見据える。
 顔も悪くない。誰もが認めるイケメンというほどでもないだろうけど、高めの鼻、スッとした顎、薄い唇は綺麗な弧を描き、微笑みを絶やさない。

「それとも、あれって『結婚はしません』っていう遠回しな宣言だった?」

 確かに、そんな男はいないと思っていてそう線引きしたし、円さんが「構わない」と言ったことに驚いて戸惑っているのは、結婚という話が急に自分に近くなってしまったから。
 でも。
 その言葉は質問のように聞こえて、その実、違う。円さんの中でそれは決定事項で、それが当たっていることも、私をイライラさせる。
 気持ち、悪い……
 何もかも見透かすような目。
 あなたのことはわかる――そういう態度が1番嫌い!
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