あなたと私のカネアイ
 内臓がふわりと浮くような感覚に襲われる。でも、さっきの嫌な感じとは違う、どこか甘い痺れは私の呼吸を乱した。
 息がうまくできなくて、逃げたい意思に反して絡まる舌と唇の間からくぐもった声が漏れる。

「ん、ふ……ぅ」

 柔らかい唇とは違う感触に探られておかしくなりそう。
 円が唇を離してくれる頃には、息が上がっていて身体に力が入らなくなっていた。
 酸素が足りなくて滲んだ涙を、彼が親指でそっと掬って、おでこをくっつけてくる。

「可愛い……結愛」

 クスクスと笑う円は、私と違って余裕の表情で私をもう一度抱きしめた。彼の胸に寄せた頬に伝わってくる体温と鼓動が心地良い。
 私、また流されてる……?
 ううん、違う。円の腕の中から抜け出さないのは、私の意思だ。
 今日、円がいてくれて良かったって思ってる自分がいる。どうしてか離れがたくて、彼の背中にそっと手を回した。
 円は何も言わずに私の頭を撫でてくれてる。
 どうして、こんなに優しくするの?
 私は円のこと、ずっと邪険にしていた。合コンのときだって、惚れられる要素はまったくなかったと思うのに。この人は、なんで私みたいな女を結婚相手に選んだんだろう……

「円は、どうして私と結婚したの?」

 今までちゃんと聞いたことがなかったかもしれない。
 そう思ったら、自然と言葉にしていた。
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