あなたと私のカネアイ
「ご飯、もう少し待ってね。先にコーヒー、はい」
「あ……うん。ありがとう」

 自分でも聞こえるかわからないくらい小声でお礼を言う。
 円の顔をまともに見られなくて、さっさとテーブルに座って出されたコーヒーを啜った。
 パンを焼いているトースターのじりじりという音、円がフライパンで何かを焼く音、お皿を出す音……キッチンから響く音が大きい気がして、そわそわする。
 やがて、円がテーブルに手早く並べてくれた朝食を前に、私はぎこちなく「いただきます」と言ってトーストにバターを塗り始めた。

「よく眠れた?」
「う、うん……」

 向かい側に座る円の顔はやっぱり直視できなくて、私は俯いたまま返事をする。
 どうにも居たたまれなくて、バターナイフを持つ手の動きが速くなった。トーストを頬張って、ソーセージやスクランブルエッグも次々に口の中に入れて、恥ずかしさを誤魔化す。
 とにかく早く食べ終えて、出勤してしまおう。
 時間は早いけど、駅前のカフェで一息つけばいい。というか、一人の時間が必要だ。
 円と対峙していると、どうしても昨夜のことを意識しちゃって、落ち着かない。時間が経てば、羞恥心も少しは薄れるはずだ。昨日の出来事を自分の中で整理して、仕事をすれば気分も切り替わるだろう。

「ごちそうさま!」

 最後の一口を飲みこんで、サッサと立ち上がる。
 食器を片付けて、出勤の準備をしたら、玄関へ――
< 113 / 166 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop