あなたと私のカネアイ
 改札口で佳織と別れ、人通りの邪魔にならない場所でぼんやりと空を見上げる。
 前回キスマークのことで佳織を呼び出したときは、とても暑くてじめじめしていた。でも、最近は朝と夜は涼しくて季節の移り変わりを実感する。
 佳織と食事をすることや帰りの時間までメールをして大人しく駅前で待つ自分を、あのときの私は想像もしてなかった。
 数ヶ月――それは、気持ちが変わるのに短い時間なのだろうか、それとも長いのだろうか。

「結愛」

 もう耳になじんだ私を呼ぶ声に、視線を向ける。仕事帰りで迎えに来てくれたらしい円は車で、助手席の窓を開けて私を見ていた。
 車に乗り込むと、窓が閉まって円に引き寄せられる。

「おかえり……ん、今日はお酒の味。ワイン飲んだ?」
「うん、最後に一杯」

 シートベルトをして、マンションまでの短い距離は他愛のない会話が続く。
 今日の仕事のことを聞いたり、佳織のことを聞かれたり……
 マンションに着けば、駐車場から部屋まで手を繋いで歩いた。本当に、円は私の日常に自然に溶け込むようになったんだ。

「ねぇ、円」

 玄関の鍵を開けてくれる円は「ん?」と返事をしつつ、扉を開けてくれる。中に入って靴を脱ぎ、彼もそうするのを見ながら、私は気になっていたことを聞こうと口を開いた。

「私と初めて会ったのは、いつなの?」

 そう言うと、円は少し驚いたように顔を上げた。
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