あなたと私のカネアイ
「盗み聞きするつもりはなかったんだけど、『お金がすべて』なんて大きな声で言うから気になって」

 円は苦笑して、ややバツの悪そうな顔になる。お客さんの会話を聞いていたことを悪いと思っているらしい。

「見たら、可愛い女の子がお金の必要性について熱弁してた」
「か、かわ……っ」

 突然何を言い出すのだ。
 私は身を引こうとしたけれど、円に手を引かれて彼の膝に倒れこむ。彼は私の身体を軽く持ち上げ、そこに座らせた。

「可愛いよ。正直に言えば、一目惚れなんだよね」
「で、でも、お金に執着する女なんて普通は幻滅するでしょ?」

 人の好みはそれぞれだから、ひとまず私が可愛いかどうかは反論しないでおく。でも、いくら外見が好みだったからって、性格に難アリでは百年の恋も冷めるというものだ。

「そうかもね。でも、結愛は別にブランド物で身を固めているわけでもないし、頼んでいる料理だって無難なランチコースだった。見栄を張りたいわけでもなさそうだし、かといってお金に苦労している感じでもない。そういうミステリアスなところに興味が湧いたんだ」

 み、みすてりあす?
 物は言い様というのはこういうことだろうか。
 引き攣った顔で彼を見上げると、一目で私の困惑を感じ取った円はクスクスと笑う。

「つまり、知りたくなったんだ。結愛のこと」

 それから、何度か私をそのレストランで見かけたけれど、声をかけるタイミングが見つからなかったらしい。

「レストランには仕事として行ってたからね。ランチの時間を狙っての訪問には、不純な動機があったけど。あ、でも、食事の後に追いかけたこともあったんだよ。仕事が終わって帰るときかな……外を歩いてる結愛が見えたから」
「え、そうなの? でも……」
「うん。結愛は仕事に戻るところだったんだよね。お店に入られちゃったら、電話番号を渡すためだけに追いかけるのも迷惑になっちゃうし」

 きちんと公私のけじめをつけているところは好感が持てる。
 それに、お店まで追いかけられたら、私は確実に円を不審者扱いしただろう。
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