あなたと私のカネアイ
 顔を上げ、目の前のお弁当箱を見て複雑な気持ちになる。
 今朝の円は、いつもと変わらなかった。
 どういう顔で会えばいいのかわからなくて悶々としていた私に、爽やかな笑顔でお弁当を渡してくれて、いってらっしゃいのキスも普段通り。
 初めての経験であたふたする私は、余裕のある夫を恨めしく思っている。
 それに……

「誕生日……どうしよう」

 今日の私を悩ませるのは、昨夜のことだけではない。
 今朝、円は新たな爆弾を落としたのだ。「今日、俺の誕生日だからディナー予約しておいたよ」と。
 早番である私のスケジュールも把握していた彼は、仕事場から二駅ほど離れた場所にあるレストランを予約したのだと言う。
 夫の誕生日すら知らなかった新妻……
 まぁ、始まりが始まりだからそれは仕方ないとして。

「プレゼント、いるよね……」

 男の人にプレゼントなんてしたことがないから、何を買えばいいのかわからない。その上、仕事が終わってからの間に迅速に選ばなければならないとなると、かなりハードルが高い。

「うぅ」

 眉間に皺を寄せ、私はスマホで夫への誕生日プレゼントについて検索を始める。
 旅行……は今からじゃ間に合わないし、ご飯はもう本人が予約済み。
 日常的に使えるものといえば、ネクタイとか? でも、好みがわからないから微妙かな。
 下着!? いやいや、ハードル高すぎる。
 あ、革製品のベルトやお財布なら駅ビルでもそこそこいいものがあるかな……? 男性もののブランドってあんまりわからないけど、店員さんに聞けばなんとかなるものだろうか。

 お弁当を摘みながらいろいろと考えるうちに、休憩時間はあっという間に終わってしまう。
 駅ビルにあるお店のサイトで商品を見つつ、ある程度目星をつけた私は、それをブックマークに入れてお弁当箱をカバンにしまった。
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