あなたと私のカネアイ
 * * *

 レストランは高級ホテルの最上階で、席は窓際の夜景が綺麗な場所だった。薄暗い照明がロマンチックで、周りもカップルが多い。
 仕事帰りだからそれなりにフォーマルな格好をしているし、メイクも直しては来たけど、もう少し服装を考えれば良かったと思ってしまう。

「ほら、結愛。乾杯しよう」
「う、うん……」

 ウェイターさんがワインを注いでくれたグラスをおずおずと手に取ったものの、円を直視できない。
 でも、今日は円の誕生日だし、一応……お祝いはしないといけないよね?

「お、お誕生日おめでとう」
「ありがとう」

 グラスを合わせるのと同時にそう言うと、円は嬉しそうに笑った。
 その笑顔にドキッとして、私はまた俯く。
 丁寧な盛り付けの前菜を口に運ぶが、まったく味がわからない。

「結愛、そんなに緊張しなくて大丈夫だよ」
「う、でも……なんか、私、場違いじゃない? て、テーブルマナーとかもわからないし」

 服装やマナーのこともそうだけど、普通は祝う方がこういう場をセッティングするべきだと思うし、それにプレゼントを渡すタイミングとかもわからない。
 というか、乾杯のときに渡せば良かった。慣れないディナーの席で、慌てて前菜に手をつけてしまった自分を引っ叩きたい。

「そんなことないよ。皆、結構カジュアルな格好で来てるよ。ドレスコードがあるわけでもないし」

 円はクスクス笑いながら答える。
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