あなたと私のカネアイ
「一生懸命選んでくれたんだ……嬉しい。大切に使う」

 その言葉に、胸を撫で下ろす。

「あの、ごめんね。誕生日……知らなくて」

 夫の誕生日くらい、聞いておくべきだったかもしれない。婚姻届もまともにチェックしていなかった自分に心底呆れる。

「いや、俺も当日まで黙ってたし……教えたとしても、正直プレゼントはもらえないと思ってたから」

 苦笑しつつそう言った円はプレゼントの箱をテーブルに置いて「でも、ちょっと残念」と肩を落とす。

「え……?」

 残念、という言葉に心臓が変な音を立てる。
 やっぱり、プレゼントが気に入らなかった? なんて、不安が再び膨れ上がった。

「今日、一緒に寝ようって誘うつもりだった。誕生日プレゼントはそれでいいよって……ずるい手を使おうと思ってたんだけど」

 円が私の手を握り、指を絡めてくる。

「寝るって、え、ね、寝る? え……?」
「俺の部屋で、一緒のベッドで寝ようか」

 それって――

「結愛が嫌がることはしないよ。ただ、誕生日だから、ちょっと特別なことをしたかったんだけど……」

 そこで円は再び苦笑いして、「いい”建前”がなくなっちゃったな」と言った後、私の手を離した。

「ごめん、シャワー浴びて寝るね。結愛もお風呂入りな」
「ま、円……」

 昨日までぐいぐい迫られたせいか、彼があっさりと引いたことが意外だった。
 そして、それをなんとなく寂しいと思っている自分にも……驚く。
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