あなたと私のカネアイ
「円ばっかり、私に……私のために譲歩してて……」

 この旅行も、全部円が手配してくれたから、私は本当に連れてきてもらっただけだ。行き先だって、私のことが優先。
 でも、それじゃあ円は?
 円は、本当にここに来たかったの? せっかくの休みに、私に合わせてばっかりで……それで良かったの?

「私は、円に何もしてない……円は私のことを甘やかして、円に得なことなんて一つもないのに。私、円のこと、好きにならないって言ってたのに……」

 本当はこんなことが言いたいんじゃないのに。
 円が行きたかったところとか、やりたかったことが他にあったと思うのに、申し訳ない。次は、円の好きなところに行こうとか、もっと気の利いた言葉があるはずなのに。
 私は自分のことばっかりで、嫌になる。

「だ、だから、私――」
「俺は、得をしたくて結愛を喜ばせようとしてるわけじゃないよ。結愛のことが好きだから、今日みたいに結愛が嬉しそうにしてくれてると、俺が結愛を楽しませてるって思うと、俺も満足なの」

 私の身体を反転させて、しっかり目を見て言う円の言葉に嘘はない。

「結愛も……『俺に何もしてない』って思うくらいには、俺を受け入れてくれてるみたいだし」
「そ、れは……」
「わからない? 前の結愛は、俺にこんなに近づいたりしなかったよ。ソファに座る時すら落ちそうなくらい端っこに座ってた。それが、今じゃこうして触れる距離で、俺とキスして、この前は……」
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