あなたと私のカネアイ
「遅刻して、あんたをイライラさせることもなさそうよ」

 佳織はニヤリと笑って席を立った。
 嵌められた――と思っても時すでに遅し。

「こんばんは。結愛ちゃん、一週間ぶりだね? 佳織ちゃんもありがとう」
「こちらこそ、ご馳走様でした」

 佳織は丁寧に頭を下げて円さんにお礼を言う。
 割引券? そんなもの、最初からなかったんだ。

「待って、佳織。私――」
「結愛」

 立ち上がった佳織を追うように腰を浮かせた私を、佳織はじっと見つめる。

「結婚をしないにしても、カードは返さなくちゃいけないでしょ? それに、連絡を無視するのも失礼よ」

 そう指摘されて、私はキュッと口を引き結ぶ。佳織の言うことは正しい。

「それじゃあ、またね。結愛」

 ひらりと手を振って帰っていく佳織の背が見えなくなって、私は円さんを見上げた。
 眼鏡はかけてないけど、柔らかに微笑む表情は一週間前と同じ。スーツをきっちりと着ているのは、仕事があったからなのだろう。
 この前は若いなって思ったけど、スーツを着ると少し年齢より上に見えるみたい。撫で付けた髪のせいだろうか。

「じゃあ、行こうか」

 そう言って円さんは歩き出し、私は小さくため息をついて彼の後を追った。
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